年末に上越線に乗ったら新潟から出れなくなった話
12月27日.2017年の冬の青春18きっぷ2回目は,まだ夜も明けきれない5時前の池袋から始まった.
年末だっていうのに,深夜とも早朝とも表現できる4時前に無理やり体を起こして,眠い体を引きずりながら西武池袋線の一番早い池袋行きに乗り込む.
上野を5時13分に出る高崎線始発に間に合わせるためである.
西武池袋線の始発に乗って池袋からこの列車に追いつくためには,埼京線に乗って赤羽で乗り換えなければならない.
池袋を5時2分に出る埼京線川越行きに乗り,5時10分に赤羽着.それから5時23分に出る高崎行きに乗り継ぐ.
20分に宇都宮線,23分に高崎線が出るホームには,列車を待つ人たちが静かに並んでいた.どちらも上野始発である.
先に出る宇都宮線宇都宮行きにそのほとんどが乗車し,後続の高崎線はホームに残った人たちが乗り込んだ.
上野からの乗客も少なく,車内はガランとしていた.
端の車両に乗車し,ボックスシートを独り占めして,これからの予定を練る.
この日は,飯山線に乗ろうと思っていた.途中,温泉地を幾つか経由するので,そのどれかに入れたら…とも考えていた.ちなみに日帰りである.
飯山線を乗り潰すだけなら始発でなくともその日のうちに戻ってこれるのだが,それだけでは味気ないと思い,青春18きっぷの醍醐味である"途中下車"をしようというわけ.
何度も通り過ぎたことはあっても未だに降りたことのない越後湯沢で降りて,越後湯沢温泉に入ってもいいし,飯山で降りて,野沢温泉に入ってもいい.
以下が簡単な旅程である.
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池袋 → 埼京線 → 赤羽
赤羽 → 高崎線 → 高崎
高崎 → 上越線 → 越後川口
越後川口 → 飯山線 → 豊野
豊野 → しなの鉄道 → 長野
長野 → 篠ノ井線 → 塩尻
塩尻 → 中央本線 → 新宿
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豊野から長野は別途運賃が必要.でもたった3駅なので250円で済む.
時間が許せば,長野にも降りて,街を散策しようと考えていた.先日訪れた松本と,どれほど規模が違うのか興味がある.
…みたいなことを,高崎線の車内でノートパソコンと時刻表を広げて考えていた.
しばらく経っても車内はガラガラで,人の出入りもほとんどなく,作業に集中していたのだが,高崎が近づいてくると次第に人が増えてくる.
急いで荷物をまとめると共に下りる準備を始めた.
7時前の定刻通り高崎に着き,改札階にあるNEWDAYSで食料を買い込んだ.朝食がまだだったので,お腹が減っていたのだ.それに,これから本数が極端に減る区間に入ることもあって,念のため多めに買うことにした.
上越線水上行きのホームに向かうと,重装備のスキーヤーが列車を待っていた.
しばらくして列車が入線してくる.115系を置き換えまくっている211系.
211系は,雪まみれだった.車体のどこを見ても雪がくっついている.
この時まで,大雪警報が出ていることを知らずにいた.朝からすごい雪らしい.
すぐにスマホで運行状況を確認し,上越線上りが遅延していることを知る.
下りは平常運転だったが,嫌な予感が拭いきれない.
しかし,飯山線に遅延の情報はなく,上越線上りも少しの遅延らしかったので,そこまで深く考えずに強行することにした.
今思えばこの時点でやめておけばよかったと思う.
雪まみれの211系に乗車,しばらくして定刻通り発車した.
朝日が眩しく,渋川を過ぎた辺りではカーテンを下ろす乗客もいたほどだ.
そんな中,しばらくロングシートに揺られていると,隣の家族連れの子供が
「雪だ!」
と叫んだ.
雪が降っていた.
高崎ではおひさまが顔を出していたのに,トンネルを幾つか越えただけで大雪になっていた.
窓は結露で水滴が一面に張り付いて,外界の雪を反射して白く染まる.
久しぶりに見た雪で,一気に旅情が増す.
途中,駅に着いてドアが手動で開けられる度にちらっと外の様子が伺えて,大雪が降っていることを確認することが出来た.ホームには雪を除雪する駅員の姿が.
そうこうしているうちに水上に着いた.
引き返そうかと思った.
ホームに立っているだけで屋根と列車の間から雪が舞い込んで来る.
屋根のないところでは膝下まで埋まるぐらいの雪が積もっていた.
しかし,そんな意志とは裏腹に,長岡行きの列車は遅延もなく平常運転で,特に遅れる様子もなかったので,疑りながら予定通り北上することにした.
上越線は雪に強いなと感心しながら跨線橋を渡って長岡行きのE129系に乗る.
このE129系も同じく雪まみれで,211系よりも雪を被っていた.
高崎からの乗客の約半分が長岡行きに乗り継ぎ,若干混雑していた先ほどの高崎からの列車よりはだいぶ座席に空きがある.
色々迷っていたが,結局,越後湯沢で途中下車することにした.寒さでお湯に浸かりたくなったのだ.
水上から越後湯沢までは1時間ほどで着く.
ロングシートで食べづらかったおにぎりを,ボックスシートでようやくいただきながら,列車は水上を発車した.
着いた.
向かいにはほくほく線の車両が停まっていて,越後湯沢まで乗り入れていることを知る.
というかそんなことなんてどうでも良くなるぐらい寒かった.
軽装備過ぎた.上着や防寒具など,色々問題だったが,なにより靴が問題だった.スニーカーを履いていた.
水上のホームを歩いているだけで雪が染み込みそうで怖かったのだが,間違いなく染み込まざるをえないだろうと,越後湯沢のホームに降りて確信する.
さらには冷気が足に直接響いてきた.このままじゃ風邪引く.
この天候じゃ色々無謀じゃないかな,と怖気づきながら階段を上り,改札を出る.
左が在来線で右が新幹線.
駅構内は広く,お土産店や屋台が軒を連ねる.
極端に本数の少ない上越線の駅だと思って甘く見ていたが,よく考えると新幹線も通っているし,何よりスキーに温泉と,周りには観光資源も豊富で,大きくないわけがなかった.
しかし,朝が早くそれらの営業はまだだったので,帰りに寄ろうと決めて,とりあえず観光案内所で地図を貰おうと構内をさまよう.
ガラスで仕切られていた観光案内所はカフェが併設された待合室と同じ空間にあった.
受付でこれから向かう温泉についての情報を聞く.
高崎線内で調べて,越後湯沢から徒歩圏内で朝から営業していたのは「山の湯」さんという公共浴場1つだけだった.評判もなかなか良かったので,楽しみだ.
一応年末なので営業しているか不安だったのだが,平常通りらしい.山の湯さんまでのアクセスは無料のバスが出ているらしく,親切にその発着時刻と帰りの時刻も教えてもらうことが出来た.
ただ,この大雪なのでそこに関しては不確定要素があるとのこと.
というわけで,ひとまず指示されたバス停に向かうことにした.
駅を出た.
歩道にも,車道にも雪が積もりに積もっていた.
駅前は除雪されているものの,ロータリーを出て少し行くと途端に除雪しきれいていない道が延々と続いている.
近くには除雪中の除雪車が一生懸命に雪を吹き飛ばしているが,完全に間に合っていない.
さらにその吹き飛ばされた雪たちは歩道側に積み重ねられ,つまり歩道は雪で埋もれていた.歩行者は車道を歩くしかない状況だった.
雪国では普通に見られるこの状況も,雪と縁遠い存在である東京に住む私にとってはある意味恐怖の対象でしか無く,完全にビビっていた.
駅前通りなので車の往来も多く,歩行者は完全に邪魔者.
何度もタイミングを見計らってようやく流れが途切れたところで道を横断しようと思い切って足を踏み込み,布でできたスニーカーは一瞬で雪に侵され靴下に届くか届かないかというギリギリだった.
足元が冷えるのを我慢しながら雪の少ない地面を選んでようやくバス停に辿り着くと,そこに誘導係のおじさんが立っていた.
そこは"バス停だったところ",という表現のほうが正しく,本来のバス停は雪で歩道が潰されたので文字通り消滅している.車道に並ぶしかなかった.
親子のスキー客が1組並んでいるだけだったが,誘導係のおじさんは彼らが車に引かれないように監視する役割を担っていた.
さらに,このバス停に発着するバスには幾つもの系統があり,行き先がそれぞれ違うのでバスが到着するたびにバスの運転手と確認を取って乗客がいないことを知らせていた.
親子のスキー客の後ろに並ぶと,おじさんがどこに行きますか?と聞いてきた.
私「山の湯さんに行きたいので,○○(最寄りの旅館名)前の停留所で降りたいんですけど」
おじさん「ああ,山の湯さんね」
私「もうすぐバス来ますよね?」
おじさん「この大雪だからもういつ来るかわからないなぁ」
私「???」
おじさん「時刻表どおりに動いてないんだよね.申し訳ないけど,待つしか無いよ」
それから30分待って,バスが来た.
その間,ずっとおじさんと昨晩から降り始めたとか,大雪で完全に麻痺してるとか,そういう話をしていた.上越線もこのままだとやばいんじゃないかなというありがたい(?)情報も頂いた.
大雪が降り続ける中じっと屋根のないところで30分待つのは中々に苦行だ.5分おきにフードやバッグに積もった雪を払い落とさなければならないし,マフラーの間から首筋に雪が伝ってきてヒヤッとしたり,ついには靴下にまで浸水した雪の気持ち悪さに耐えなければならない.
バスに乗り込むと5分ほどで停留所に着いた.
停留所を下りて,坂を上ると山の湯さんがあると観光案内所の方が教えてくれたのだが,その坂には雪解け水がとめどなく流れ,上り切る頃にはいよいよ冷水に靴を履いたまま足を浸したような状態になった.つまりもうびしょびしょだった.
駅を出てからカメラをバッグにしまったので山の湯さんの写真はないが,外観だけでかなり趣のあるところだった.
入口を開けると,受付で管理人のおじさんがご苦労様と気遣ってくれた.
券売機で入浴料と貸しタオル料を支払い,出てきた券をおじさんに渡し,さっそく風呂場に向かう.
左手には石油ストーブの焚かれた畳敷きの休憩所があり,一面の窓から降り続ける雪を見ることができる.
脱衣所で濡れた靴下を脱ぎ,しばらく乾かす.よくこんなの履いていたなという具合に靴下は濡れていた.
いよいよ風呂場に入る.
シャワーはなく,ジャグジーから出てくる源泉かけ流しのお湯を洗面器に溜めて体を洗う.
シャンプーやボディソープは備え付けてあった.公共浴場なので無いかと思っていたが,これはありがたかった.
全て洗い終えると,お湯に浸かった.
若干ヌメヌメしていて,硫黄の香りもするが,そんなに強くない.温度は高めで,好みの湯加減だった.
雰囲気もいいし,お湯もなかなか.営業時間だけを決め手にここを選んだが,正解だったようだ.
1時間ぐらい湯船に浸かっていた.このまま駅に戻って東京に帰るつもりでいた.正直予想外なことが多すぎて疲弊してしまった.
もう出ようかなと思ったところで,地元の方が入ってきて,雪がすごいですねとか,どこから来たんですかとか,話が弾んでしまって,これは嬉しいハプニングだった.地元の方との交流はなかなか楽しい.
のぼせる寸前でお湯を出て,着替えた.靴下はまだ若干湿っていたが履けるほどにまで乾かした.
座敷でストーブに当たりしばらくボーっとしてからバス停に向かう.
心身ともに安らいだ後に,また雪道を進まなければならないと思うと気が重かったが,それ以外に方法がなかったので外に出た.
往きに降りた停留所でしばらく待っていたのだが,案の定バスは来ない.こんなことだろうなと思いながら30分経ち,そのまま1時間が経とうとしていた.もうフードに積もった雪を払い落とすのは諦めていた.
おかしい,来ない.
もう上越線上りの発車時刻は過ぎていた.次の水上行きは3時間後だった.
もう色々どうでも良くなっていた.足の感覚はなくなってるし指先がどうなってるのかもわからない.山の湯に戻ろうか.もう一度湯船に浸かろうかな.
意識も薄らぎそんなことを思っているとようやくバスが来た.
どこへ行くか念のため訊ねると,どうやら越後湯沢ではなくガーラ湯沢行きのバスらしい.
もう笑ってしまう.とにかくこの状況から抜け出したくて,ガーラ湯沢行きのバスに乗った.とにかく屋根のあるところに行きたかった.
脱衣所で乾かした靴下は再びびしょ濡れになっていたし,全身は冷えて何のために湯船に浸かったのか分からない.
10分ぐらいでガーラ湯沢に着いて,新幹線で越後湯沢に戻ってそれから在来線で帰ろうと思っていたのだが,次の東京行きは2時間後で,もうやれやれ状態.
しばらく駅構内をぶらぶらして,越後湯沢行きのバスが出るとアナウンスがあったので,再びバスに乗車して越後湯沢に戻ってきた.
お腹が減って仕方がなかったので,屋台で五平餅を購入する.ついでに隣の売店にも寄り,帰りの車内で食べるための駅弁を買う.
ようやくゆっくりできる.そう思いながら近くのベンチに座って五平餅を食べていると,アナウンスが聞こえてきた.
「上越線,上下線ともに大幅な遅延をしております」
急いで窓口で事情を聞きに行った.
越後湯沢のポイントが故障しているのが大きな原因で,更に上越線全体が大雪による除雪作業のため遅れているらしい.
駅員によると,あと10分ほどで越後湯沢に到着するはずの下り長岡行きは,たったいま水上を出発,途中駅で除雪による停車をするため,さらなる遅延が見込まれるという.
肝心の上り水上行きに関しては,現状ではどうなるかわからないとのこと.
ありがとうございました.と礼を述べ,一旦待合室に入ることにした.
かなり面倒なことになった.
東京に帰るための列車がどうなるかわからないのは相当まずい.
待合室でこれからの行動を考える.
下手に動くのはやめて,しばらく待ってみることにする.
しかし,越後湯沢駅構内は土産店,スポーツショップやレストランなど,観光者向けの施設は多いが,決して都市圏の駅のようになんでもあるわけではない.
高崎線内で飯山線に乗ろうとか計画していた数時間前のことが,遠い過去のように思えてくる.
時刻は13時を回ろうとしていた.時間は止まってくれない.
そして,なぜか上越線下りの列車に乗って長岡に向かった.
当時の思考回路は今考えてもよくわからない.
多分,自分が感じていた以上に切羽詰まっていたのかもしれない.
もしこのまま越後湯沢に閉じ込められるのならば,長岡で閉じ込められたほうがマシだと思ったのかも.
少なくとも長岡は越後湯沢よりは栄えている.過去に長岡のホテルに泊まろうとしたことがあって,調べた記憶がある.
越後湯沢の駅周辺になにもないことが怖かったのかもしれない.いざという時のためにある程度規模の大きい都市に逃げようとしたのかも.
確かに越後湯沢から最も近い都市は長岡だった.
新幹線を使おうという考えは微塵もなく,それならば長岡に行こう,ということだろう.
新潟県第2位の都市圏に降りてみたかった気も無くはなかったかもしれない.
謎の行動原理で長岡を目指すことにした私は,次の列車を調べた.
幸運なことに越後湯沢始発の下り上越線は動いているらしい.13時13分発の長岡行きに乗り込む.
遅延による待ちぼうけを食らった人たちが多くいたにも関わらず,車内は空いていた.
この遅延の嵐の中,定刻通り列車は動き出した.
安心感(?)からか,空腹が襲ってきたので予め買っておいた駅弁を食べる.
非常に美味しかった.空腹は最高の調味料である.
冷蔵庫のような気温の中に放置しておいたにも関わらず,肉は柔らかく,ご飯も美味しかった.
一瞬で平らげて,睡魔に襲われる.長岡まで寝てしまった.
着いた.
改札を出て,すぐ目に入った無印良品へ直行して靴下を買った.
これだけで長岡に来て良かったと思えた.便利なのはいいことだ.
濡れた靴下の気持ち悪さから解放されると,近くのスタバで落ち着くことにした.
コーヒーを飲みながら,周辺のビジネスホテルを調べる.
新潟市に次ぐ都市圏なだけに,かなりヒットした.ネカフェも複数あったので,少なくとも野宿することはないだろう.
もう宿泊予約をしてしまおうかと思ったが,一応まだ帰れないと決まったわけではないので,幾つか目処を付けておく.
上越線の運行状況は,やはり越後湯沢でのポイント故障の影響で大幅な遅延をしているらしい.あれから事態は好転してはいなかった.
スタバを出て,駅の外に出ることにした.
長岡でも雪は降っていた.
それでも,越後湯沢や水上に比べたらずっと小降りで,積雪も少なく,歩くことに不自由はしなかった.
駅周辺を少し歩く.
長岡城址がある長岡駅西口の街並みは,駅舎の前にロータリーが大きく展開されていて,その上を駅直結の歩道橋が走り,駅前通りへと伸びている.
飲食店と言っても,ほとんど居酒屋しかなく,新潟駅と似ているなと感じた.
駅ナカが非常に発達していて,駅前はそこまで,と言った印象だった.
特にめぼしいものも見つからなかったので,駅に戻り,改札前の発車標を確認していると,もうすぐ上越線上りが出るとのアナウンスがあった.なんと定刻通りの発車らしい.
時刻表通りならあと数分だ.急な判断を求められ,とりあえず,もし乗ることになっても飢えないように近くのNEWDAYSで食料を買って,改札に戻る.
もしかしたら今日中に東京に戻れるかもしれない.淡い期待に誘われた.
いま一度運行情報をスマホで確認し,"運休"ではなく"遅延"という文字を確かめる.
大丈夫,動くことには動くんだ.
渋川まで辿り着けるならば,イコール帰れるのだということだ.
長岡を発って池袋に着く終電はあと3本程あとなので,もし途中で遅延によって数時間遅れても,まだ取り返しはつくはず.
最悪,高崎以降の終電が終わってしまっても,高崎周辺なら宿泊の手段なんて山ほどある.よし.
16時32分発の上越線普通水上行きに飛び乗った.
これがいけなかった.
この結果,車内に5時間以上閉じ込められた.
まず,長岡を出発して数駅を過ぎたあたりで,1駅ごとにかなり,長時間の停車があった.
そのおかげでずるずると到着予定時刻は遅れ,六日町に着いた頃には1時間も遅れていた.
度々,「除雪のため停車いたします」という放送が流れる.
ああ,なんということだろう,と嘆いたが時はもう既に遅かった.やはり長岡に留まっておけばよかったのだ.
そうして,六日町停車中.車掌から突然「水上から先に行かれるお客様は車掌までお知らせください」とのアナウンスがあり,車内は騒然となった.
放送の仕方からして,水上から先に行けないのか?と誰もが疑問に思っていたと思う.
指示通り,水上より先に向かう乗客たちが,一斉に列車の最後尾に押し寄せる.あとになってわかったことだが,乗客の過半数が東京へ帰る人達だったのだ.
結局,埒が明かなくなり,車掌が車内を周り,一人ひとりの目的地を訊く事態となる.
この列車の乗車率はかなり高く,それだけでかなりの時間を要したように思えた.
その後も,車掌からは「遅延している」という旨の情報しか与えられず,車内は更に緊迫した空気に.
しばらく六日町から動かなかった列車が動き出した.それからは比較的スムーズに上り方面に走っていたが,石打で再び停車した.
Twitterで上越線の運行状況を調べると,前を走る1時間前に長岡を発車した列車が越後湯沢で運行をやめていたとの情報を得る.
それからは越後湯沢から水上まで代行バスを手配して乗客を運んだということだった.乗客は無事水上までたどり着いたらしい.
水上から先,高崎行きは通常通りの運行をしていた.
もしかしたら私たちも越後湯沢で代行バスに乗り水上まで行けるのではないか.そうすれば東京に帰れる.
と思った矢先に,再び車掌からアナウンスがあった.
「越後湯沢駅のポイント故障のため,この列車はこれ以上進むことが出来ません」
「そのため,これより参ります下り長岡行きに乗り換え,浦佐駅までお戻りください」
越後湯沢にすら辿り着けないと言われた.
それどころか,来た道を戻る指示を与えられてしまったのだ.
流石に,もう,ダメだと思った.帰れない.
それからしばらくして,長岡行きがやってきた.指示通りこの下りの車両に移る.
車内は元々5割ほど埋まっていて,そこに私たちが乗っていた水上行きの乗客が乗り込んだことでかなりの混雑となった.
追加のアナウンスがあった.
「浦佐まで行かれましたら,新幹線で東京方面にお乗り換えが出来ます」
暗に,もう新幹線しか方法は残っていないと言われた.まぁそうだよな.
そうして,列車は順調に北上して,浦佐に到着した.
乗客が次々と降りる.乗ってきた列車は車体がだいぶ軽くなって,悠々と長岡へ歩みを進めた.
疲弊しきった私たち乗客を駅員は改札口へと誘導する.
新幹線の改札口へと通された私たち.待合室前の広い空間に集められた.
駅長らしい人物がメガホンを片手に,これからの指示を促す.
ひとまず,この度は申し訳ありませんでした,というお詫びに続き,現在上越線は大雪のため運休を決めていて一切動かないという状況確認,その後に,これからの対策.それは.
つまり,高崎より先,東京までは自費で帰ってくれとのこと.
列車に乗っていた人数は思っていたよりかなり多く,おそらく100人近くいたと思う.
高崎まで乗る人はその中の10人足らずで,私を含むそれ以外の乗客は大宮や東京まで乗る必要があった.それは,駅長が挙手でどこまで行かれるかというアンケートを取って調べた.
その中のひとりが反発した.
私たちは何時間も車内に閉じ込められた.大雪なのは仕方がない.その点に関してはJR側に落ち度はない.
しかし,車掌に指示されたとおり,それ以外の解決手段が提示されなかったため,仕方なくこの浦佐駅までやってきたのだ.行動が制限された中,突然浦佐駅で解放され,自費で帰ってくださいはあまりにもひどすぎるのではないか.
という内容.結局,東京までの運賃も負担するよう要求をした.
駅長は予め予感しておいたのか,すぐにそれを飲んで,東京まで料金を払わずに帰れることになった.
青春18きっぷなどのフリーきっぷを使用していた人も例外なく,全員が浦佐駅から新幹線に乗ることが出来たのだ.
その後,浦佐駅では新幹線が到着するまで自由時間となり,待合室で寒さを凌ぐ人や外のコンビニへ買い出しに出かける人などに分かれた.
東京行きの上越新幹線に乗ってもその日のうちに帰れない人もいて,その人達にはホテルの手配がなされた.翌日以降に帰ることになったらしい.
私たちは乗車券や特急券無しで改札を通り,新幹線に乗車することになった.
乗車したのはMaxとき350号.東京行きの最後の新幹線だ.
自由席に乗車してくださいとの指示があった.自由席はほとんど貸し切りで,1時間ほどで上野駅に着いた.
上野駅では,事情を話すとすんなりと改札を通ることが出来た.
結局,なんとかその日のうちに帰宅することができて,今では貴重な体験ではあるが,この時は本当にホッとした.
もしあのとき,長岡で列車を見送っていたら,もしその1本後の列車に乗っていたら,どうなっていたのか.想像するだけでも怖い.
最善策は長岡で1泊することだったと思う.でもやっぱり,宿泊代と青春18きっぷ1回分を浪費しなくて済んだのは嬉しい.
というわけで,最後は青春18きっぷで新幹線に乗って旅は締めくくられた.
おかげでまだ3回分残っている.次は1泊でもしようかな.
終わり.